航空気象における Inversion and Fog (逆転層と霧)

[Weather : 気象]

パイロット免許への水先案内人

須永です!

 

前回は、

Icing and Frost (着氷と霜) について

お話しさせていただきました。

機体 (特に翼) が着氷したり

霜で覆われてしまうことはとても危険です。

それぞれどんな気象状態のときに

発生しやすいのか

しっかり押さえることは出来ましたか?

 

 

今回は、

Inversion and Fog (逆転と霧)

についてお話したいと思います。

通常、高度の上昇とともに

温度は低下していくのですが、

時として地上付近の温度よりも

上空の温度が高いという状況もあるのです。

地上をスタートして

高度が高くなるにつれて

一度温度は低下していくのですが、

ある高度からしばらくの間、

温度は上昇に転じます。

その後、再び高度の上昇とともに

温度は低下していくことになります。

このような気象現象を

温度の逆転 (Temperature Inversion) といいます。

TEMPERATURE INVERSION

air above is warmer than the air below

TEMPERATURE INVERSION

:温度の逆転

air above is warmer than the air below

:上の空気 より暖かい 下の空気よりも

さて、このような温度の逆転が生じたとき

どんな気象状態になるのでしょうか?

もし、このときの空気が

多くの湿気を含んでいたとしたら

霧・霞・低い雲が発生しやすくなるのです。

結果として視程は悪くなりますよ。

また、とても空気は安定していることも

予測できるんです。

と言うのも、

もし空気が活発に

流動状態であったとしたら

暖かい部分と冷たい部分が

すぐに混ざり合ってしまい

温度差のある空気塊が層状に落ち着いている

なんてことにはなりませんよね。

INVERSION LAYER WITH HIGH RELATIVE HUMIDITY

Smooth air

Poor visibility, and fog, haze, or low clouds

INVERSION LAYER WITH HIGH RELATIVE HUMIDITY

:温度の逆転層 高い相対湿度とともに

Smooth air

:乱れのない空気

Poor visibility, and fog, haze, or low clouds

:視程不良 且つ霧、霞、または低い雲

また、温度の逆転層が存在している場合は

もう一つ予測される状況があるんです。

それは、Windshear (ウインドシア) です。

Windshear (ウインドシア) とは、

突然、風向・風速が変わることです。

地上2,000~4,000フィートの高度で

少なくとも25ノットの風が吹いていて

且つ地上付近では無風に近いような場合は

Windshear (ウインドシア) が存在している

可能性が大です。

WIND SHEAR ZONE IN AN INVERSION

Windspeed at 2,000 to 4,000 feet AGL is at least 25 Knots

WIND SHEAR ZONE IN AN INVERSION

:ウインドシア地帯 逆転層内で

Windspeed at 2,000 to 4,000 feet AGL is at least 25 Knots

:風速 地上2,000から4,000フィートの 少なくとも25ノットです

では、そもそも逆転層が起こる原理とは?

地面の熱エネルギーの放射によるものなんです。

雲がほとんどなく風も弱い良く晴れた夜に

地面が熱エネルギーを放射することによって

地面付近は強く冷却されるのです。

これを放射冷却といいます。

雲っているときは、

雲が熱の放射を遮ってしまうため

放射冷却は起こらなんですね。

また、風がない。

もしくは弱いのであれば、

放射冷却によって冷やされた空気は

地面付近に留まることになるのです。

地面付近の強く冷えた空気層は

その上にある空気層の温度よりも

低温状態となるわけです。

そこで、地上付近の水蒸気が

冷やされ凝結して

Radiation Fog (放射霧) / または Ground Fog (地上霧) となるのです。

RADIATION FOG (GROUND FOG)

Develops in warm, moist air over low,

flatland areas on clear, calm night

RADIATION FOG (GROUND FOG)

:放射霧 (地上霧)

Develops in warm, moist air over low,

:発達する 暖かく湿った空気 低温の上の

flatland areas on clear, calm night

:平地エリア 晴れた風のない夜

次に別のタイプの霧の

Advection Fog (移流霧) です。

その特徴は、

冬場の海岸線に近いエリアで発生します。

冬は内陸よりも

海上の空気の方が暖かくなります。

その暖かく湿った空気が風によって

冷え切った内陸に移動してくると

凝結して霧が発生します。

ADVECTION FOG

forms when an air mass moves inland

from the coast in winter

ADVECTION FOG

:移流霧

forms when an air mass moves inland

:形成する 空気塊 内陸に移動するとき

from the coast in winter

:沿岸から 冬

さらに別の

Upslope fog (上昇霧) です。

空気が風によって

山などの斜面にそって

押し上げられることで発生します。

押し上げられる。

つまり、高度が上昇するわけです。

高度が上がると温度は?

そう下がりますね。

そこで空気が冷やされ凝結して

霧となって現れるのです。

UPSLOPE FOG

Air cooling as it is forced to rise up a slope

UPSLOPE FOG

:上昇霧

Air cooling as it is forced to rise up a slope

:空気冷却 押し上げられるにつれて 斜面を

Advection fog と Upslope fog が

形成されるには

ある条件が必要なんです。

それは、です。

なぜなら、これら2つの fog は

空気が風の力で冷えているエリアに

移動させられる結果、

生じるものだからです。

DEPEND ON WIND

Advection fog

Upslope fog

DEPEND ON WIND

:左右される 風に

Advection fog

:移流霧

Upslope fog

:上昇霧

では、最後にもう一つ別の

Steam fog (蒸気霧) です。

水面から蒸発している水蒸気が

冷たい空気によって冷やされて

発生する霧のことです。

例えば、

露天風呂や熱い飲み物から

湯気が上がるのと同じ原理なんですね。

この温度差がミソなんですが、

海水や湖水が「お湯になる」

なんてことはありませんよね。

そこで、蒸気霧が発生するための

温度差はどのように生まれているのか?

海水や湖水がお湯になる代わりに

水面の上にキンキンに冷えた空気が

流れ込んでくることで

温度差が生まれるわけです。

真冬になってしまうと

水温自体も低くなってしまうため

ミソである温度差が生じません。

ですから、

主に初冬に発生する霧

ということなんですね。

この蒸気霧が

フライトに与える影響としては

低空での乱気流着氷が挙げられます。

温度差が非常に大きいときに

発生する霧ということで、

下の方が暖かい場合は

不安定な大気状態となりますので

乱気流が生まれやすいと言えます。

また、この温度差によって

蒸発した水蒸気が一気に冷却されて

着氷に繋がる可能性が大ということに

なるわけですね。

STEAM FOG

Low level turbulence

Icing

STEAM FOG

:蒸気霧

Low level turbulence

:低高度 乱気流

Icing

:着氷

<まとめ>

Inversion and Fog (逆転と霧)

温度の逆転 (Temperature Inversion)

◎放射冷却によって地上付近の温度よりもその上の空気層の温度が高い状態となる現象

温度の逆転時の気象状態

◎乱れのない空気

◎視程は良好でない

◎霧・霞・低い雲

WIND SHEAR (ウインドシア)

◎温度の逆転時、地上2,000~4,000フィートの高度で少なくとも25ノットの風速がある場合はウインドシアが潜んでいる可能性が大

Radiation Fog (放射霧)

◎雲も風もない夜、放射冷却された平地付近に発生

Advection Fog (移流霧)

◎冬季、相対的に暖かく湿った海上の空気が風によって冷えた内陸に移動するこで生じる

Upslope fog (上昇霧)

◎強制的に風によって空気が斜面に沿って上昇することで生じる

風によって発生する霧

Advection Fog (移流霧)Upslope fog (上昇霧)

Steam fog (蒸気霧)

水面から蒸発している水蒸気が冷たい空気によって冷やされて生じる

◎低空での乱気流や着氷の危険あり

では、早速練習問題にトライしてみましょう!

・・・・・・・・・・・・・・・

Q1  :  The most frequent type of ground or surface-based temperature inversion is that which is produced by

A  :  terrestrial radiation on a clear, relatively still night.

B  :  warm air being lifted rapidly aloft in the vicinity of mountainous terrain.

C  :  the movement of colder air under warm air, or the movement or warm air over cold air.

The most frequent type

:一番頻繁なタイプは

of ground or surface-based temperature inversion 

:温度逆転が置かれた地上または地表の

is that which is produced by

:~によって 引き起こされる

terrestrial radiation on a clear, relatively still night.

:地球の放射 晴れた 比較的夜の間

warm air being lifted rapidly aloft in the vicinity of mountainous terrain.

:暖かい空気 持ち上げられる 急激に 上に 付近で山の地形の

the movement of colder air under warm air, or the movement of warm air over cold air.

:冷たい空気の移動 暖かい空気の下の または 暖かい空気の移動 冷たい空気の上の

自力で回答してから音声を聞いてください。

・・・・・・・・・・・・・・・

Q2  :  Which weather conditions should be expected beneath a low-level temperature inversion layer when the relative humidity is high?

A  :  Smooth air, poor visibility, fog, haze, or low clouds.

B  :  Light wind shear, poor visibility, haze, and light rain.

C  :  Turbulent air, poor visibility, fog, low stratus type clouds, and showery precipitation.

Which weather conditions should be expected

:どの気象条件 予想されるか

beneath a low-level temperature inversion layer

:低空での温度逆転層の下で

when the relative humidity is high?

:相対湿度 高いとき

Smooth air, poor visibility, fog, haze, or low clouds.

:乱れのない空気、視程不良、霧、霞、または低い雲

Light wind shear, poor visibility, haze, and light rain.

:軽いウインドシア、視程不良、霞、且つ弱い雨

Turbulent air, poor visibility, fog, low stratus type clouds, and showery precipitation.

:乱気流、視程不良、霧、低い層雲、且つにわか雨

自力で回答してから音声を聞いてください。

・・・・・・・・・・・・・・・

Q3  :  A pilot can expect a wind-shear zone in a temperature inversion whenever the windspeed at 2,000 to 4,000 feet above the surface is at least

A  :  10 knots.

B  :  15 knots.

C  :  25 knots.

A pilot can expect a wind-shear zone

:パイロット 予想できる ウインドシア地帯

in a temperature inversion

:温度逆転の下で

whenever the windspeed at 2,000 to 4,000 feet above the surface is at least

:地上2,000から4,000フィートの風速 少なくとも~の時はいつも

10 knots.

:10ノット

15 knots.

:15ノット

25 knots.

:25ノット

自力で回答してから音声を聞いてください。

・・・・・・・・・・・・・・・

Q4  :  What situation is most conducive to the formation of radiation fog?

A  :  Warm, moist air over low, flatland areas on clear, calm nights.

B  :  Moist, tropical air moving over cold offshore water.

C  :  The movement of cold air over much warmer water.

What situation is most conducive

:どんな条件 一番助けとなる

to the formation of radiation fog?

:形成のため 放射霧の

Warm, moist air over low, flatland areas on clear, calm nights.

:暖かく、湿った空気 冷たい空気の上、晴れた平地エリア、風のない夜

Moist, tropical air moving over cold offshore water.

:湿った、熱帯の空気 移動 冷たい沿岸水の上に

The movement of cold air over much warmer water.

:冷たい空気の移動 非常に暖かい海水上の

自力で回答してから音声を聞いてください。

・・・・・・・・・・・・・・・

Q5  :  What type of fog depend upon wind in order to exist?

A  :  Rediation fog and ice fog.

B  :  Steam fog and ground fog.

C  :  Advection fog and upslope fog.

What type of fog depend upon wind in order to exist?

:どんなタイプの霧 風にかかっている 出現するために

Rediation fog and ice fog.

:放射霧と氷霧

Steam fog and ground fog.

:蒸気霧と地上霧

Advection fog and upslope fog.

:移流霧と上昇霧

自力で回答してから音声を聞いてください。

・・・・・・・・・・・・・・・

Q6  :  Low-level turbulence can occur and icing can become hazardous in which type of fog?

A  :  Rain-induced fog.

B  :  Upslope fog.

C  :  Steam fog.

Low-level turbulence can occur and icing can become hazardous in which type of fog?

:低空での乱気流が生じたり 着氷が危険となるのは どのタイプの霧ですか

Rain-induced fog.

:降水霧

Upslope fog.

:上昇霧

Steam fog.

:蒸気霧

自力で回答してから音声を聞いてください。

はい。どうでしたか?

放射冷却によってもたらされる

温度の逆転という現象であったり

その条件下で生じる放射霧の特徴。

その他の霧の発生の原理など

しっかりと整理して覚えてしまいましょう。

本文の内容さえ押さえておけば

筆記テストは大丈夫です。

それでは引き続き頑張っていきましょう。

ということで、今回は以上となります。

今日も最後まで読んでいただいて

ありがとうございます!

ではまた!

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コメント

  1. takui より:

    免許取得を目指しているものです。
    解説していただきたい問題があります。
    During the run up at high elevation airport,pilot notes a slight
    engine roughness that is not affected by the magneto check but grows worse during the carburetor heat check, under these
    circumstances,what would be the most logical initial action?

    A)check the reults obtained with a leaner setting of the mixture.
    B)Taxi back to the flight line for a maintenance check.
    C)Reduce manifold pressure to control detonation.

    • 須永 学 須永 学 より:

      takui 様

      はじめまして、須永です。
      ご質問ありがとうございます!

      問題をざっくり訳してみますと
      「高地の空港にてエンジンランナップ中、パイロットはエンジンの回転がラフ(スムーズでない)なことに気づきました。
      それは、マグネトーチェックの際の影響ではありません。しかし、キャブレターヒートチェックの間に悪化しました。
      このような状況下で、一番理にかなった最初のやるべき行動は何ですか?」

      ここで、まずポイントなのは、high elevation airport(高地の空港)ということです。
      高度が高いので空気は薄いですね。
      低地と同じ要領でミクスチャーコントロールセットをしていると
      燃料と空気の混合気の割合は、
      空気が薄い分、燃料の割合が多いリッチ状態となってしまうわけです。

      で、問題文をもう一度見てください。
      「キャブレターヒートチェックの間に悪化」とあります。
      混合気を作るキャブレター内をヒート(温め)したら更に悪い状態になったんですよね。

      温めらてた空気は膨張しますから更に薄くなるので
      混合気の割合は、もっとリッチ状態になってしまったために
      エンジンの回転が更にラフになったということが予測されるわけです。

      そこで、まず試すことはミクスチャーコントロールのセットを
      リーン(燃料の割合を薄く)にセットしてみることなんです。
      それで通常の回転に戻れば問題なくフライトしてOKです。
      あなたの予測した通りの状況だったということですね。

      ということで、この問題は
      A)「ミクスチャーをリーンにセットして様子をみる(得られた結果を確認する)」が正解となります。

      以上、こんな感じですが、納得していただけましたか?
      まだ不明な点がございましたら
      ご遠慮なくどんどん質問をお寄せください。
      よろしくお願いします。
      ありがとうございます。

      須永 学

      • takui より:

        わかりやすい解説ありがとうございました、納得しました。
        また分からないことがあったら質問させていただきます。

        • 須永 学 須永 学 より:

          takui 様

          納得していただけて良かったです。
          又いつでもお待ちしています。
          頑張ってくださいね。

          須永