低酸素症と過呼吸について

Flight Operations

[Flight Operations : 運航]

 

パイロット免許への水先案内人

須永です!

 

 

前回は、

Near Midair Collisions (きわどい空中衝突) の報告について

お話しさせていただきました。

 

ならばこのような報告は

したくはないものですが

何が起こっても冷静に対処できるように

備えることの大切さを

理解していただけましたか?

 

 

 

今回は、

Hypoxia (低酸素症) と

Hyperventilation (過呼吸)

についてお話したいと思います。

 

 

飛行高度が高くなればなるほど

あなたの身体にある異変を

起こす可能性があるということです

 

その異変というのは

Hypoxia (低酸素症) のことです。

 

Hypoxia (低酸素症) とは

生体の組織に十分に酸素が行きわたらず

組織の酸化による代謝が不十分であること。

 

まあ簡単にいうと

「酸欠」といわれる状態のことです。

 

高度が高くなるにつれて

気圧が低くなりますよね。

 

通常の呼吸で得られる酸素の量も

減ってしまいます。

 

身体全体に必要十分な酸素が

行き届かなくなります。

 

特に脳の酸素が不足すると

脳の機能も低下してしまうんです。

 

疲れ、頭痛、めまい、視力の低下等の

症状が出たりするのです。

 

HYPOXIA

A state of oxygen

deficiency in the body 

 

HYPOXIA

:低酸素症

A state of oxygen

:状態 酸素の

deficiency in the body 

:不足 体内の

 

 

 

特徴として酸欠になっていることに

本人が気づかない場合もありますので

ぼーっとしたり適切な判断が

出来なくなってしまいます。

 

2人のパイロットがいれば

どちらかの酸欠状態に気づく場合が

多いのですが、

パイロット1人の時は要注意です。

 

1人の時は低空を飛行するのが

無難ということになりますね。

 

しかし、高い高度の飛行が必要な際は

Suppliment Oxygen (酸素補充)

することも考えておきましょう。

 

低酸素症が発現してから意識を失うまでの時間を

有意識時間 (Time of Useful Consciousness) TUC といいます。

 

最近では有効機能時間 (Effective Performance Time) EPT とも

呼ばれていますが、両者は同じものを指しています。

 

高度が増すごとに EPT は短くなります。

 

下の表はあくまでも健常者を対象に

安定時に測定されたものです。

 

実際の飛行中であれば、

さらに短くなるものと考えるべきです。

 

  高度            TUC and EPT

  • 10,000~15,000 ft     1時間以内
  • 18,000 ft         30分
  • 20,000 ft         5~10分
  • 25,000 ft         2~3分
  • 30,000 ft         90秒
  • 35,000 ft         45秒
  • 40,000 ft         30秒
  • 50,000 ft         10秒

 

 

 

小型プロペラ機では

ジェット機が巡航するような

高度までは上がれませんが、

高い高度における酸素装置や

与圧装置の故障はきわめて短時間で

致命的になるということは

覚えておきましょう。

 

米国連邦航空規則によれば

機内高度が12,500フィートを超え

14,000フィートまでの飛行においては

当該高度の飛行が30分を超える場合には

その時間について必要最小乗組員に

十分な量の酸素補充を準備し、

実際に補充しなければならない。

 

また、機内高度が14,000フィートを

超える飛行においては

当該飛行の全飛行時間にわたって

必要最小乗組員に十分な量の酸素を準備し

実際に補充しなければならないと

規定されています。

 

安全策をとるならば

10,000フィート以上を飛行する場合は

酸素補充を行うべきでしょう。

 

特に視覚は低酸素に敏感なため

夜間飛行で5,000フィート以上を

飛行する際は酸素補充をすることが

推奨されています。

 

 

 

さて、もう一つの別のコンディションが

あなたの身体に異変をきたすかも知れません。

 

それは・・・

Hyperventilation (過呼吸) です。

 

飛行中、もしも強烈なストレスや

恐怖、パニックなどに陥ると

呼吸の乱れを起こすことがあります。

 

それが原因となって

操縦不能の事態を招くこともあるのです。

 

過呼吸とは、

息を吸い過ぎて、息を吐き過ぎている状態です。

 

平常時と比べて浅く速い呼吸をくり返すことで

血液中の二酸化炭素が大量に排出され

血中の酸素が多くなり同時に

血液がアルカリ性となることで

息苦しさを感じるようになります。

 

重度の場合、しびれや痙攣、意識の低下、

判断力の低下といった症状が

出ることもあります。

 

HYPERVENTILATION

Emotional tension, anxiety, fear

 

HYPERVENTILATION

:過呼吸

Emotional tension, anxiety, fear

:情緒的緊張、不安、恐怖

 

 

 

対処法としては、

紙袋を口に当てて呼吸させる

ペーパーバッグ法を思い浮かべる方も

多くいるかと思います。

 

過呼吸は酸素の吸い過ぎだから

二酸化炭素を再呼吸して二酸化炭素を

増やそうという処置法です。

私もそのようにすることと

習った者のうちの一人です。

 

今回この内容を書くにあたり

ペーパーバッグ法の基本を

おさらしておこうと思い調べてみたのですが、

ペーパーバッグ法は間違っている

というのが現在の常識となっているようです。

 

全く知りませんでしたので

びっくりしました。

 

◎過換気の原因が重篤な病気である可能性もあり

その場合は死亡させる危険もある。

 

◎原因は精神的なものだけではないということ。

 

◎二酸化炭素そのものが患者さんの不安を

助長させる可能性もある。

 

 

 

ということで、正しい処置は

息を吐くことを意識させるです。

 

☆吸う吐くを1:2の割合で呼吸をする

☆1回の呼吸で10秒かけて吐く

☆吐く前に1~2秒息を止めるくらいがベター

☆大声で話す

☆歌を歌う

 

 

言葉を発しているときは

過呼吸ではない状態となます。

なので、話したり歌うことで

呼吸を整えることに繋がるようですね。

 

リラックスできれば

症状も落ち着いてきます。

 

 

 

現在、日本の AIM-Japan からは

ペーパーバッグ法は削除されています。

しかし、web上の

FAA – AIM (2017) を確認したところ

8-1-3.Hyperventilation in Flight の項には

「paper bag」の文字が記載されています。

医療に関することなので

日本とアメリカの見解に相違があるのかも知れません。

 

私は医療の専門家ではありませんが、

紙袋の使用は危険ということだけは

認識しておくべきだと思います。

 

ただ問題なのはテストでの対応ということですね。

 

これに関しては、現地のインストラクターに

相談してみてください。

 

 

 

<まとめ>

Hypoxia (低酸素症)

高度の上昇に伴う体内への

酸素取り込み量の不足による

酸欠状態のこと

 

対処法

12,500 feet ~ 14,000 feet の高度で

30分を超える飛行と

14,000 feet より高い高度は全飛行時間

Suppliment Oxygen (補充酸素)を使用する

 

 

Hyperventilation (過呼吸)

緊張、不安、恐怖など

ストレスやパニックにより

引き起こされる呼吸の乱れ

 

対処法

息を吐くことを意識する・させる

話すとや歌うことも有効

 

 

 

では、練習問題にトライしてみましょう!

 

今回は過呼吸の対処法として

「紙袋を使用する」が正解となる問題が存在するのですが、

それを除いたものを選んでみました。

・・・・・・・・・・・・・・・

Q1  :  Which statement best defines hypoxia ?

 

 

A  :  A state of oxygen deficiency in the body.

B  :  An abnormal increase in the volume of air breathed.

C  :  A condition of gas bubble formation around the joints or muscles.

 

 

Which statement best defines hypoxia ?

:どの文書 一番 明確ですか 低酸素症について

A state of oxygen deficiency in the body.

:状態 酸素の   不足 体内の

An abnormal increase

:異常な 増加

in the volume of air breathed.

:呼吸される空気の量

A condition of gas bubble formation

:状態  気泡形成の

around the joints or muscles.

:周辺  関節や筋肉

自力で答えを導き出してから

音声を聞いてください。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

Q2  :  Which would most likely result in hyperventilation ?

 

 

A  :  Emotional tension, anxiety or fear.

B  :  The excessive consumption of alcohol.

C  :  An extremely slow rate of breathing and insufficient oxygen.

 

 

Which would most likely result in hyperventilation ?

:どれ 可能性が高くなる 過呼吸

Emotional tension, anxiety or fear.

:情緒的緊張、不安、または恐怖

The excessive consumption of alcohol.

:過大摂取 アルコールの

An extremely slow rate of breathing and

:極端に ゆっくりな 呼吸数 と

insufficient oxygen.

:不十分な 酸素

自力で答えを導き出してから

音声を聞いてください。

 

はい。どうでしたか?

 

くり返しにはなりますが、

過呼吸の対処法は、

まず紙袋というのが当たり前でした。

 

ところが、今ではそれは

とても危険な行為であるということを

初めて知る機会を与えていただきました。

 

昨日の常識は今日の非常識というように

日進月歩の世の中なんだと

改めて気づくことができました。

 

可能な限り正しい情報を提供していこうと

思っていますので、

もしも、

「ここ違うんじゃない?」という点が

ございましたら遠慮なくご指摘ください。

 

一緒に良いブログにしていきましょう!

よろしくお願いします。

 

ということで、今回は以上となります。

今日も最後まで読んでいただいて

ありがとうございます!

ではまた!

 

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